前置詞の豊かさと広がり: 宗宮喜代子/石井康毅/鈴木梓/大谷直輝 「道を歩けば前置詞がわかる」その3


その1その2

ofとfor - 非空間の「大物」前置詞

この「ofとfor」の章の内容はおそらく次の論文が元ネタ。本では本章は11ページしかなくて簡潔に説明しているが、論文では詳細な議論がなされているので、ofやforに興味がある人は読むといいと思う。

  • 宗宮喜代子「英語前置詞 of の意味」、言語情報学研究報告No.11、227 - 45、2006、ここから入手
頭の中を照らす: of
  • ofは一つのものだけをみつめ、その内的な構成(ある概念の内部構造)を指示する。ofは概念的、抽象的である
    • the label on the jar (ラベルとビンという二つのものがあり、ラベルがビンに乗っている) / the label of the jar (ビンの一部分としてラベルがあり、両者は一体)
    • 「ビンの底」はthe bottom of the jarとしか言えない。ビンと底は一体でしかありえないからである。
    • the roof/owner/location of the house (家という概念のroof/owner/locationという特質を指示)
    • the blue of the sky (空という概念の青色という特質) / the sky of blue (青色という特質をもつもののうち、空に属する固体)
    • the woman of blue eyes (青い眼の女性) / *the woman of eyes (女性は当然眼をもっているので、重複表現となる。よって非容認)
    • some of my pencils (my pencilsという集合(概念)の下位集合としてsomeがある、ということに焦点)
    • I heard of you. (君のことは聞いている=youの特質に眼を向けている) / I heard about you. (君のことは聞いている=youの周り(about)の出来事について聞いている) / I heard you. (君の言ったことが聞こえた=youとIが直接接触している)
別世界をほのめかす: for
  • forは、文の主語または話し手が思い描く心の世界を指示する。つまり、文が描く世界(フレーム)と関係のある第二の世界(フレーム)を導入する。第二の世界がどうなっているかは、forに続く語をヒントに聞き手が想像する
    • The police searched the dead body. (目の前にある死体を直接調べた) / The police searched for the dead body. (死体は警察の目の前にはない。死体は、それを探す警察の想像の中には存在していると思われる)
    • This piece of cake is for Mary. (話し手は、メアリーがケーキを食べているところを想像していると思われる。実際にメアリーが食べるかどうかはわからない)

まとめ

一見よくわからない使い方をされた前置詞(または前置詞を含む句動詞)も、その前置詞の原義(基本イメージ)からどのように意味がひろがっていったのか、ということを理解することで、その前置詞の使い方、考え方を知ることができるようだ。


この本を読んだ後は、前置詞を使った実例にたくさん触れることで、より実践的に前置詞の基本・発展イメージをつかむのがよいと思う。以下は、英語の句動詞について、前置詞中心にまとめた本。前置詞の用例を集中的に勉強したいひとにはお薦め。


“英語のしくみ”が見える[基本動詞 + 前置詞]イディオム1000

“英語のしくみ”が見える[基本動詞 + 前置詞]イディオム1000