前置詞の豊かさと広がり: 宗宮喜代子/石井康毅/鈴木梓/大谷直輝 「道を歩けば前置詞がわかる」その2


その1その3

up/down, out/in の意味と非対称性 - 垂直と水平の広がり

upとdown
upの意味のひろがり
基本的な意味は、「上を向いて大地に身を起こす」。そこから、「身を起こす → 視界に入る → 接近する → 大きくなる → 高さが増す」と意味が広がる。ゆえに「現れる」「体積が増す」「完了する」「創造する」「高揚する」なども表す
downの意味のひろがり
基本的な意味は、「寝転がる」。そこから、「落ち込む(落ち着く)」「停止(休止)」なども表す
upとdownの非対称性
upが上方向からはじまり、(上方向を含意しない)完了などにイメージが広がったのに対し、downは下向きのイメージしかない。また、upは主語の動作に焦点が合わさるのに対し、downは目的語の様子に焦点がある
    • He sped up/*down his car. (downは使えない)
    • He slowed up/down his car. (両方使える。upのほうは、slowの度合いをupしているのに対し、downは、速度そのものをdownしている)
    • He pulled up his car. (upは完了の意。上方向の意味はない) / He pulled down his sleeves. (袖を下ろした。downには下方向の意味が必ず付与される)
    • He drank up his beer. (飲み干した=動作に焦点) / He drank down his beer. (飲み下した=ビールに焦点)
outとin
ふたつのout
outは「範囲の外」を表す。しかし、話し手がその範囲の「内/外」どちらにいるかで、outの意味は「出て行く/出てくる」というように変わる
    • He went out. (出て行った) / He came out. (出てきた)
    • The light went out. (消えた=話し手の視界の範囲の外へ) / The stars came out. (現われた=見えなかったところから外へ出て、話し手の視界に入ってきた)
出て行くout
「出て行く」から広がって、「活動が終わる」「解決する」「徹底的にやる」なども表す。さらに、「範囲の外」=「自分の管轄外」の意味から、「故障(再起不能)」なども表す
    • Please hear me out. (最後まで聞いてください) / The van's brakes gave out. (ブレーキがきかなかった) / The species died out. (絶滅した)
出てくるout
「出現」から広がって、「目立つ」「膨張」「心に出てくる(理解する)」「世に出る(創造する)」なども表す
    • I took out a pair of shoes. / He stands out in a crowd. / The days are drawing out. (だんだん長くなっている) / I have figured out this math probelm. (解いた) / I've worked out the answer to the question. (答えを出した) / He wrote out a report. (書き上げた)
ひとつのin
inは内部を表し、outのように意味が広がらない
outとinの非対称性
inは客観的で物理的な範囲の内部を表すのに対し、outは知覚の範囲の外部を表す。また、inでは「不在」を表せないが、outでは「出現」「消滅」両方を表せる
    • He filled in the form. (用紙の範囲内に書き込みがなされたというイメージ) / He filled out the form. (文字が頭の中から外に出てきて用紙に現われるイメージ)
環境の非対称性

上記のような意味の非対称性は、現実世界の非対称性(下は大地で行き止まりだが、上は果てしなく広がっている、など)からきているのかもしれない。

ネイティブの前置詞感覚

ここでいう前置詞は、同じ形で副詞として使われるものもまとめてそう呼んでいる(in, out, up, down, through, off, on, ...)。

  • 動詞+前置詞は比喩的な意味を表すことが多い
  • 動詞+前置詞の句動詞では、聞き手は自分の経験と前置詞のイメージを結び付けて想像している
  • 合わさって独自の意味を出す熟語的な句動詞でも、前置詞の基本イメージから理解できる部分もある
  • 前置詞を使った句動詞や文を理解するには、英語ネイティブの日常的な経験からくる「世界の見方」を知る必要がある
    • 例えば「花が咲く」=「つぼみの状態から花びらが外に出る」=「outで表すことができる」。 (例) The cherry blossoms will be out soon.
  • 句動詞では、前置詞の方が意味の主導権を持って、動詞のほうの意味が薄れている場合も多い。だから、前置詞の意味の対応づけを知れば(例えば「外に出ている(out)」=「見える、分かる」)、動詞の意味がわからなくても、前置詞から意味を想像できることもある
  • しかし、ひとつの前置詞に意味の対応付けが複数ある場合もある。例えば「burst out: 見えなかったものが視界に出てくる(out): 開始」に対し、「carry out: 活動が(まっとうされてその時間の範囲から)出て行く(out): 終了」など。しかし、よく使われる対応付けは限られているし、またその前置詞が使われている前後の文脈から、どの対応付けかを予測できることも多い
  • 日本語の発想や表現から、英語の句動詞のイメージをつかめることもある。
    • 例えば「take "out"」=「取り"出す"」、「clear "up"」=「晴れ"上がる"」など
  • 日本語の発想や表現が使えない場合は、英語で表現したい事柄が表すイメージを思い描き、それを適切に表せる前置詞は何か、を考えるとよい。その際、その前置詞をキーとして辞書を引いてみるのもよいかもしれない


その3へ続く。