「コンピュータである」という利点を生かせない外国語の電子辞書、あるいは辞書の未来

紙の辞書>>>>>>>電子辞書 ?

英語の学習法とかそれ関連の記事は、よくはてブで盛り上がることが多い。「そんなに英語に苦しみたいの?」も、はてブのエントリから見つけた記事のひとつ。個人的には納得するところが多い記事だったが、疑問点もある。

2 辞書は圧倒的に紙の辞書

そりゃ電子辞書は便利。軽くてすぐに 検索できるし。

それでも、紙の辞書の優位性は変わらない。

その1、用例が豊富。辞書は意味を知るためにあるのではない。用例を読むためにある。

その2、書き込みができる。どんどんよごして、自分の記憶を確かにするには紙の辞書しかない。

その3、ぼろぼろになる。ぼろぼろになるまで使い込んだら、それなりに言葉がものになった証拠。この自信が外国語の進歩にはとっても大事。(もっとも、僕は辞書を枕にしてたらぼろぼろになったけどw)

だいたい、辞書を引く早さなんて、慣れたらそうそう電子辞書に負けないと思うんだがな。それに、言葉を見つけるまでの間にその単語をつぶやいてたり、あるいは別の単語に寄り道するのが大事なんじゃないか。

そんなに英語に苦しみたいの?
「用例が豊富」
紙の辞書をそのままコピペした電子辞書の場合は、用例も紙と同じ。そもそも紙の辞書からして、紙幅の制限のために用例はひとつの意味につき2,3しかない。よって豊富とはとてもいえない。
「書き込みができる」
書き込みで記憶を強化というのはもっともだけど、辞書に直接書いた内容をもう一度見返すことはかなり少ないのではないか。もしPCやPDAなどのなんらかの電子媒体に書き込んだとするなら、見返すのも容易だし、検索機能の利用もできる。
「別の単語に寄り道するのが大事」
電子媒体なら、語を調べたときに別の知りたい語が出てきた場合も、そこへすぐにジャンプすることができるため、寄り道が容易である*1

電子媒体の辞書は、実力を発揮できていない

上の引用記事を読んで改めて思ったことだけど、電子辞書、あるいは広く取ってコンピュータの辞書は、いまだその利点を生かしきれていない*2。ここでは語の用例にしぼって論を進めるが、その有り余る容量を生かして、無数の用例を格納することだって可能だろうに、いまだ電子辞書やオンライン辞書サービスは、ただ単に紙の辞書をコピペしただけのものが多い*3


もちろん、ネットで公開された大規模コーパスや、あるいはGoogleなどの検索サービスなど、用例を調べるためのすぐれた手段はある。しかしこれらは、与えられた生の情報から、自分にとって必要な用例情報を探すという作業が必須であり、当然学習者にとっては手間が生じてしまう。一方で紙の辞書の用例は、前述の通り、編集者による選別を経ているため学習に適してはいるが、いかんせん量が絶対的に不足している。


必要なのはおそらく、選別された紙の情報と、無選別の大規模言語データ(コーパス)の利点を併せ持つようなもの。ある言語のコーパスから、その言語の学習を手助けするような形で用例を抽出して提示する、という…。


人手でそのようなものを構築するのは、あまりに時間と規模がかかる。かといって、何らかのプログラムによって自動的にそれを構築する方法というのは、ちょっと自分には思いつかないのだが…。ただ、以下のような語学のためのウェブサービスには、その萌芽がみられるのではないかと思う。


英文校正サイト [NativeChecker]

http://erek.ta2o.net/

参考

本論考の大部分は、山岡洋一さんの一連の論に負うところが大きい。本記事よりもよっぽど含蓄のある論を展開されているので、興味のある方はリンク先をぜひ読んでください。なお、山岡さんは、翻訳書(日→英、英→日の両方)の名訳を集めた『翻訳訳語辞典』(英日・日英)を作成、公開しています。

*1:オンラインなら「英辞郎」がワードリンク機能つきである。

*2:英辞郎」は、よくやっている方だと思う。

*3:紙の辞書を「X冊分収録」とか、間違った方向に容量を使っている。